“やった”
そう、そうこなくては。
これが醍醐味なのだ。
本命とおぼしき奴が、そのラインの向こうに闘争本能むき出しにして必死に逃げようとしているのが想像できた。
その引きから想定するに、小さくはないと思った。
そう判断できた。
急いで仕掛けを回収すると、ロッドを艫の脇に置き舳へ移動するとそこは、T氏の戦場であった。
T氏は、痛めた肘をかばいながらもとても良いファイトをしている。
中年のおっさんに仲間入りした彼の体脂肪は殆どないし、日頃のトレーニングも怠ってはいないらしい。
しかし、今年痛めた肘は痛いみたいであった。
私のヒット後、T氏が、ストライクプロマグナムミノ―に替えてからすぐにヒット。
彼とは若き頃の笑い話を良くするのだが、いつも小湊の清澄寺の近くで山籠りされた偉大は武道家の話をする。
「あのローキックは痛いよねぇ」
とも話す。
あの上から大腿の急所を狙った下段蹴は強烈に痛いのは彼も良く知っていた。
難なく冷静沈着にロウニンアジを上げてしまった彼にはまだ余裕の笑みがあった。
さあさあ、これからだ。
これからが本番なのだ。
早々に撮影を済ませると迅速にリリースをする。
何とも頼もしい2本目。
これも軽く25kgはあった。
船はまた、ほぼ同じ位置に移動すると潮の流れにそって流し始めた。
そして、更に活性が上がった我々は、キャストを繰り返す。
再び前衛から声が上がり、クルーが叫ぶ。
「えっ?誰なの?」
そう撮影の忍者君に尋ねると、名人は
「T-氏です!」
確かにそう答えた。
こうなるともはや気運はT-氏に流れて行った感は、確定的であろう。
決して無理しないが、確実にかつ的確に相手にプレッシャーを与え続ける様は、安心して観ていられる。
流石に百戦錬磨のT-氏。
マーリンマニアが生んだ冷静さと落ち着き。