楽園の終焉V-5
2021-04-12


 気温がぐっと下がった先週ですが、今週は少し暖かくなりそうです。
それでは、その5です。

少しばかり雲と風のある月夜のこと。
月明りがぼんやりと地面を照らしかたと思うとまた、流れる雲が被さって辺りを暗くする。風に乗ってその雲がゆっくりと月を隠すと周りのトーンは更に闇に近くなり、また辺りを少しずつ明るくして行く。
辺りには、私以外に誰もいない夜。

聞こえるのは吹き抜ける風と、それに靡く小枝の音。

川の流れる音。

落ち込みが水を打つ音。

少しばかり蛙が鳴いているが、それも川の流れと一緒に聞こえてくるのは、何時もの事なのかもしれない。
 足元の草むらをブーツ越しに踏むとその前には、7cm8cmくらいのダルマガエルが鎮座していた。話によると、今では彼らも絶滅危惧種らしい。昭和の40年代は、田んぼにわんさかいたのだが。
そんな、蛙の風情の夜の事。

 そのプラスチックの疑似餌塊は、またポコポコと音を立てて自分の方に向かってくる。それを何度も何度も少しずつパターンは換えてみるものの、基本は投げては引きの繰り返しである。時折竿先でイレギュラーに動かしてみたり、水の流れや変化に合わせてその巻き取りスピートを変えてみたりと余暇の入り口で右往左往する気分。
"
人生もそんな感じなのかな。"
何も悟っていないのに、そのような悟った気分を自分自身で審判してしまう自分。

 何の変化もないまま、ルアーなるものは手前に寄って来てはまた、それをその先にある流れの奥にくれてやる。

奥。
その奥の奥に。
そのまた奥だよ。

きっとさらにその奥には、幸せと言う何かがあるのかもしれないのに。

楽園があるかもしれないのに。

あなたは、また諦めてしまうのですね。

 その自然空間の間に聞こえる機械音と言えば、〓カチィッ”と言うリールのクラッチを切る僅かな音と、竿が風を切る音の後を追って唸りをあげるリールスプールの逆転音。
そしてまたリールのハンドルを回すとクラッチが跳ね上がる音。
ああ、自然の音と小さな機械の音。
なんて夜なのであろうか。

 本日のここは、少しばかり寂しい感じもするが、いや寂しいのであるが、それが独りの静寂となるとそれはそれで良いのかも知れない。


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